正義が行う非人道的行為
お風呂の侵略者
去年の事だったと思いますが、息子と入浴していた時の話です。当時5歳だった息子がボディーソープの空容器に水を入れて、「ロシア、ロシア」と言いながら、湯船に浸かる自分の頭目掛けて、プシュプシュと水を掛けてきました。不謹慎ではありますが、思わず笑ってしまいました。どうやらロシアのウクライナ侵攻のニュースを見た彼は、ロシアと言う国に対して、理不尽に攻撃を仕掛ける国と言う印象を持ったようです。
実際のところは全く笑えません。
ロシアにも言い分があることや、かつてのロシアの軍事行動を世界が黙認した経緯があることもわかっているつもりですが、だからといって、侵略行為を正当化するようなものではありません。
しかし、更に事態を笑えないものにしているのが、人道的観点から使用が疑問視されている兵器である劣化ウラン弾をイギリスが、クラスター爆弾をアメリカが、それぞれウクライナに供給した事です。
毒を以て毒を制すといったところでしょうか。散々ロシアの非人道性を批判しておきながら、自分たちは良いのでしょうか?自分たちが正義だから?
そもそもその傲慢な正義の押し付けが、こうした事態の元凶の一端なのではないでしょうか?
何が善で何が悪なのかを自身の損得と主観で決定し、自身にとって不利益な存在は排除する。更に最悪な場合は、戦争そのものを利益と判断するケースもあるのでしょう。軍事力の顕示、それに伴う覇権と国際的発言力、兵器売買と軍需拡大による経済効果、思想統制、国内支持率…
やっつける独裁者とやっつけない独裁者を何かの基準で選定し、世界有数の大量破壊兵器保有国たちが、実在するかどうかわからない大量破壊兵器を保有していると言う理由で他国の領土に爆弾や砲弾の雨を降らせる。そしてその爆弾と砲弾の残骸が、半永久的にその国の国民たちを苦しめる。
自分の目から見て、アメリカの傀儡もしくは51番目の州に見える日本でこんな記事を書くと、批判が集中するかもしれませんが、アメリカと言う国は、過去を通じて知っています。自分たちの国土が戦火に巻き込まれない戦争は儲かると。
では、戦火に巻き込まれた国はどうなるのでしょう?
劣化ウラン弾
劣化ウラン弾とは、ウラン濃縮する時の副産物である劣化ウランを弾芯に用いた砲弾で、劣化ウランの特性である硬さと重さにより、装甲を貫きます。更に、衝突時の高温に誘発された化学反応で酸化ウランの微粉末になり、その際、激しく燃焼する焼夷効果を発揮します。
劣化ウランそのものは放射性廃棄物なので放射線を発し、その半減期は45億年です。
つまり、本来なら費用をかけて厳重に保管・管理しなくてはいけない放射性廃棄物を、敵を殲滅する道具に変えて他所の国に捨ててくると言う、使用者からすると一石二鳥の優秀な兵器なのです。
微粉末の直接的吸引はもちろんのこと、残留物による周辺の汚染、雨水等を媒介として、最終的に人体に取り込まれるリスクなどにより、内部被曝による健康被害が予想されます。”予想されます”と書いたのは、使用者たちがその因果関係を否定しているからです。
健康被害を訴える帰還兵や、実際に劣化ウラン弾が使用された地域の住民たちを検査して、その被害の深刻さを訴えても、「それは敵国が使用した化学兵器の影響だ」とか「油田とかいっぱい燃えただろ?アレのせいだよ」とか言って認めません。
そしてその因果関係がはっきりしないのであれば、有効で優秀な攻撃手段として使い続けるそうです。
はっきり言います。
先ず、放射性物質が危険じゃないわけないだろ!
それを撒き散らしておいて、実害出てないからセーフですってか?
しかも実害出てるし!
そんな事言ってるヤツの家の周辺に酸化ウランを撒き散らしたいです。それでも同じこと言いますかね?
次に、発想が逆だろ!
因果関係がはっきりしないのであれば、”因果関係がはっきりして、劣化ウラン弾の使用は環境汚染や健康被害などの取り返しがつかない二次被害には繋がらない、と言う結論が出るまでは、使用しないことにする”が普通だろ!
見通しの悪い交差点で、「車が来ているのが見えないから、見えないってことは来てないってことで」って突っ込んでくのと同じ発想です。
「見えてないってことは、来てても見えないってことだから、ひょっとしたら来てるかも」って考えて、慎重に行くのが正解でしょ?
劣化ウランによる汚染は、癌や白血病、先天的障害などの形で今も人々を苦しめており、今後も使い続けると宣言しているからには、その数は増えていく一方です。
クラスター爆弾
クラスター爆弾とは、コンテナと呼ばれる親爆弾の入れ物の中に数個から数百個の小爆弾が格納された爆弾です。この爆弾は発射されたあと、空中で破裂し、中の小爆弾を散布します。小爆弾の中には炸薬と鉄球などが入っており、広範囲に対する殺傷能力が非常に高い兵器です。
クラスター爆弾の非人道性はその無差別さと不発率の高さにあります。
広範囲に非常に高い殺傷能力を発揮するので、その範囲内にいる敵対勢力や一般人の区別なく被害をもたらします。
また、不発率の高さ故に、長期的に不発弾による犠牲者を出します。見つけて、それとは知らずに触る子供や、除去作業員などへの被害が多数報告されています。
国際社会ではこの非人道的兵器を廃絶する方向で進んでおり、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)には、本記事執筆時点で94の国が署名しています。今回の関係者であるロシア、ウクライナ、アメリカはいずれも署名していませんが…
自分の中では、この兵器そのものの非人道性もさることながら、使用者の外道っぷりの方も問題視しています。
ベトナム戦争の時の話です。
アメリカが支持する南ベトナムの反対勢力である北ベトナムがラオスの共産主義勢力(パテト・ラオ)を支援していた為、ラオスの共産主義化を阻止するためと、北ベトナムから南の前線への物資供給ルート(ホーチミンルート)を絶つ為、アメリカは、ベトナム戦争と平行して、ラオスに空爆を続けました。その偏執的な規模に驚かされますが、1964年から1973年の9年間で58万回、時間換算で8分に1回の頻度で、200万トンを超える爆弾が投下されました。当時のラオスの人口で計算すると、一人あたり1トンの爆弾が落とされたことになるそうです。
ここからがまた酷い話なのですが、ラオスは爆弾の投棄地としても利用されたそうです。ベトナムでターゲットの爆撃に失敗した際、爆弾を積んだままタイのアメリカ基地に着陸できないので、帰り道になるラオスに爆弾を大量に投棄したのです。先程の放射性物質の廃棄処分の発想と一緒です。
なかなかの外道っぷりです。
圧倒的強者が力無き者に、強力かつ執拗な暴力を振るっておきながら、子どもたちには「弱い者いじめはいけませんよ」と教育するつもりなのでしょうか?
それとも、弱い者でも適当に理由を付ければ、徹底的にいじめても良いということでしょうか?
50年経った今でも、その不発弾による犠牲者が跡を絶ちません。先述の9年間で約2億7000万個の小爆弾が投下され、約30%に当たる8000万個が本土に残っていると言います。1964年からの不発弾による被害者数は5万人以上で、その40%が子供だと言います。
2016年、当時のアメリカ大統領であるオバマ氏が、現役大統領としては初めてラオスを訪問し、不発弾撤去に対して以降3年間で年額3000万ドル(それまでは年平均490万ドル)支援すると宣言しました。立派なことです。爆撃の際には、1日1330万ドル費やしたくせに…
UKRAINE, KHARKIV, 01 March 2022:ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた人々. – jp.depositphotos.com正義の鉄槌
結局のところ、どちらもやっている事は同じなのではないかと思います。
一度も自国を攻撃したことの無い国の領土に砲弾と爆弾の雨を降らせる。
攻撃対象者を”悪”とすることによって、自身の行いを正当化し、正義の執行を隠れ蓑に邪魔者を排除する。逆らった者の末路を見せる事で、自身の意見を通りやすくする。
そこにもっともらしい大義名分を掲げてみたところで、やっていることもその発想も大差ないように思います。
より声の大きい者の意見が正義なのでしょうか?
より腕力の強い者の主張が正義なのでしょうか?
少なくとも正義を名乗りたいなら、自身が”悪”と定めた相手と同列でものを考えないことです。「あっちがそうするのならこっちだって」なんて言っているようでは、どっちもどっちです。自分が正しいと思うものは、相手の出方によって決まるものではないはずです。
我が家のお風呂の侵略者も、あれから2回の誕生日を経て7歳になりました。
その年頃の男の子のご多分に漏れず、ヒーロー物や戦隊物を見ています。
玩具メーカーの少子化対策なのでしょうか?客単価を上げるためか、後から後から追加される変形パーツのせいで動きにくそうなゴテゴテに装飾されたロボットが、省エネな動きで強烈なビームを放ち、敵を爆破します。正義の鉄槌です。
”悪”を滅ぼすのに、「多対一は卑怯だ」とか「圧倒的火力差はズルい」とか「何も木っ端微塵にしなくても…」とかは通用しないようです。
確かに、ハリウッド映画とかに出てくる悪役は最後、逮捕されるとかじゃなくて、大抵酷い死に方をしてハッピーエンドってのが相場です。
自分が正義で相手が悪ならば、何をしても許されると言う刷り込みが蔓延するこの世の中で、子どもたちに対して、”正義”とは、”善”とは、と言う概念を正しく導く事の重要性を再認識させられました。
そして、一日でも早いウクライナやロシアの人々の安寧を願って…
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